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【声明】
コンピュータ監視法に対する疑問

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2010年11月22日


 

新聞報道によれば、法務省は来年の通常国会に共謀罪と分離し、コンピュータ監視法を上程することをきめたといわれています。理由は、世論の反対の強い共謀罪は後回しにし、ウィルス対策を優先するためとのことです。
私たちは、サイバー犯罪条約批准のための国内関連法の整備を理由とするコンピュータ監視法は市民の表現の自由、通信の秘密を侵し、監視社会化を推し進めるとともに、現行の刑事法体系を壊しかねないという強い危惧を抱いています。

コンピュータ監視法は、新たにウィルス作成罪・使用罪をつくり、有体物ではない電子データを差し押さえの対象に加え、プロバイダーなどに通信履歴の最長90日間の保存を要請することなどをもうけるものです。
私たちは、次の理由によりコンピュータ監視法をつくることに強い疑問をもっています。

第一に、ウィルス作成罪はいくつかの重大な問題をもっています。
作成罪はウィルスを作成したこと自体を処罰しようとするもので、使用されたから処罰するというものではありません。実際に使用されていないプログラムがウィルスかどうか、どのようにして判断するのでしょうか。そのうえ作成罪には未遂の規定はありません。作成されたプログラムを捜査当局がウィルスと判断すれば、それでウィルスにされてしまいます。プログラムの作成は、表現行為の一つです。それを使用以前の作成の段階から処罰しようとするのは、市民の自由な表現行為を侵害し、萎縮させるだけです。事実、コンピュータ監視法のウィルス定義自体が「人が電子計算機を使用するに際してその意図に沿うべき動作をさせず、又はその意図に反する動作をさせるべき不正な指令を与える電磁的記録」(改正案刑法168条の2)と「意図に沿うべき動作をさせず」又は「意図に反する動作をさせる」という実に抽象的で曖昧なものです。これでは捜査当局によってプログラムが恣意的にウィルスと判断されかねません。
刑法の基本は、現に被害がでたら、法益の侵害があったら、加害者を処罰するというものです。プログラムが使用もされず、ウィルスかどうかもわからない段階で作成者を処罰するというのは刑法の精神に反するのではないでしょうか。また量刑の問題もあります。作成罪と使用罪の量刑が、同じ三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金になっています。作成罪は使用罪との関係では予備行為にあたります。刑法の中には予備行為と実行行為が同じ量刑という罪名はありません。予備行為と実行行為が同じ量刑というのはどう考えても理解できません。
更にウィルス作成が単独でおこなわれた場合、ウィルスがつくられたことをどうやって調査・立証できるのでしょうか。複数の者がかかわっていれば誰かの口からもれるということはあるかもしれません。しかし単独の場合、見込み捜査とか、コンピュータ利用者の監視という方法などしか、作成者を見つけことはできないのではないでしょうか。

第二に、有体物を差し押さえの対象とする法体系と電子データの差し押さえを対象とする法体系は異なるのではないでしょうか。現行刑事訴訟法は有体物の差し押さえを対象としたものであり、そこに電子データの差し押さえを接ぎ木することは、現行の刑事訴訟法の精神、体系を危うくする恐れがあります。憲法35条、刑事訴訟法の差し押さえの規定は、差し押さえるべき物と場所を明確に規定しています。しかし、コンピュータ監視法は「差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であって、当該電子計算機で処理すべき電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる」(刑事訴訟法改正案九十九条二項)と規定しています。これは、捜査当局は一カ所のあるコンピュータを差し押さえるとき、対象とする電子データがそこにない場合でも、電気通信回線でつながってさえいれば、そこからアクセスできるパソコン、サーバーなどの全てをみて、必要なものを複写して差し押さえることができるということです。この点は、同法をめぐる国会の質疑でもリモートアクセスやLANなどの問題として大きな議論になりました。つまり、LANでつながるすべてのコンピュータを捜索できるということです。いままでの有体物の捜索・差し押さえでは全く考えられない事態です。このような法の制定を許せば、市民は安心してコンピュータを使うことはできなくなるでしょう。有体物の差し押さえを対象とする法体系に電子情報の差し押さえを包摂することには無理があります。
電子データを対象とする差し押さえにあたっては、既にコンピュータが多くの市民にとって必要不可欠な通信手段となっている現在、慎重に時間をかけて検討すべきではないでしょうか。

第三に、捜査当局の要請による通信履歴の最長90日間の保存は、市民の通信の自由、プライバシー権を明確に侵害するもので、多くの問題をはらんでいます。
捜査の必要があるとき当局は裁判所の令状がなくとも通信履歴の保全を要請できるとしています。通信履歴には、通信相手のアドレス、コンピュータを特定する上での必要なデータ、送信の日時など、基本的に通信内容以外の一切がふくまれます。対象は実に広範でコンピュータ、携帯電話のメールだけではなく、ホームページへのアクセスもふくまれます。これで当局は通信履歴で対象者の交友関係、思想、信条、趣味などを把握できます。しかも繰り返し保全要請をすることも可能です。そうなれば通信履歴の保存要請で盗聴法並み、いやそれ以上の効果をあげることができます。盗聴法は対象犯罪が限定されており、また盗聴には裁判所の令状も必要されていることを考えると、捜査当局による通信履歴の保全要請が使いやすさゆえに乱発される恐れがあります。

私たちは、自由な言論・表現活動、通信の秘密などが保障されてこそ、平和で民主的な社会は実現されると考えています。コンピュータ監視法は私たちのそういう思いと両立できません。多くの問題をはらむコンピュータ監視法は一度白紙に戻し、最初から議論をやり直すべきであると考えています。